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政治資金を監視する米国① 
「政治資金について議論する会議」

2017.06.24

立岩陽一郎

6月1日、モンタナ州の牧場に全米から政治資金に関わる専門家50人が集まった。参加者は研究者、市民グループ代表、ジャーナリスト、自治体関係者など様々だ。


なぜニューヨークやワシントンではなくてモンタナなのか。それは、この州に全米で最も活発に政治資金調査を行っている団体があり、そこがこの会議を主催しているからだ。


National Institute on Money in State Politics(以下、NIMSP)がそれだ。用意されたシャトルバスで会議が開かれる牧場に着くと、NIMSP代表のエドウィン・ベンダー(58)が出迎えてくれた。


「日本でも政治資金を監視する仕組みができたというのは嬉しいことだ。会議が終わったら我々の事務所にも来て欲しい。わからないことは何でもきいてくれ」


ベンダーの説明から確認しておくと、米国の政治資金に関わる状況は以下の様になっている。


日本の国会議員にあたる上下両院議員の政治資金報告書は、全て連邦選挙委員会に報告される。大統領もそうだ。州の選挙委員会に報告されるのは知事、州議会議員の政治資金だ。各州によって、フォーマットが異なる他、個人の献金の上限などの「政治資金規正法」にあたる規則も異なるという。また、データを電子情報で管理しているところもあるが、そうでないところもある。


NIMSPはそうした全てのデータの他、主要な市のデータベースも作って公開しているという。その具体的な仕組みは、次回の事務所のルポで報告したい。


そして最も大きく異なるのは、米国で政治資金と言われているものは「campaign finance=選挙資金」であることだ。本来は「選挙資金」と訳されるべきだが、本稿では、便宜上、「政治資金」のままで通す。


会議初日の6月1日は全員で集まって自己紹介や今後の日程について議論。


自己紹介の場で、私は、公益法人「政治資金センター」の設立と現在の取り組みの現状を説明した。その中で、日本では政治資金収支報告書の保管期間が3年しかないため、データベース作りが急務だと説明した。参加者から驚きの声が挙がった。


自己紹介の後は、パネラーが報告を行ってそれに基づいて討議を行った。最初に主催者であるNIMSPのベンダーがこの一年間の団体の実績を説明。この1年間で全米の1190人の研究者が1億8000万件のデータを利用した他、678人のジャーナリストが2400万件のデータを利用して3200の記事に引用されたということで、利用頻度は年々高まっているとのことだった。


NIMSPは全米を網羅しているが、各州で政治資金の調査に取り組んでいる団体はいくつもある。そうした団体の代表らが状況の説明を行った。この中でウエスト・バージニアの政治資金を調べている団体のジュリー・アーチャー(46)は、「ウエスト・バージニアでも報告書をデジタル化して提出することを義務付ける法律が通った」と報告。後でアーチャーに確認したところ、全ての州でデータ化されているわけではないという。透明性を確保するためには、市民グループの働きかけが不可欠であることが確認できた。


専門用語の飛び交う、かなりレベルの高いやり取りで、全てを理解できたわけではないが、以下、把握できた範囲で参加者の発言を紹介したい。


カリフォルニア州オークランド市で選挙管理委員会(倫理委員会という名称になっている)の責任者を務めるつホイットニー・バラゾト(41)は、行政側としての取り組みを説明。議会の理解を得られないと予算も確保できず、議会に協力者を作ることが重要だと話した。また、行政としても多くの人に利用してもらう取り組みに力を入れていて、「Code of America」という若者のITグループをボランティアとして迎え、ウエブサイトを再構築したと説明。


「完全なボランティアだった。かかった費用はランチ代くらい。それでも、彼らは喜んでやってくれた」


説明をしつつ、そのウエブサイトであるOpen Oaklandの「ビフォア&アフター」を示した。「アフター」が見やすく操作しやすいのは一目瞭然だった。


政治の不正監視に取り組む市民グループ代表のメレディス・マギー(61)も、「監視することで政治家も常に意識するようになる」と話し、各自の取り組みを評価した。ただ、監視活動は市民の理解を得ないと効果が無いと次の様に話した。


「データは重要だが、ウエブサイトに数字だけ並べられても多くの人は意味がわからない。それは多いのか。少ないのか?どういう性格のお金なのか?もっと見せる工夫をする必要がある」


驚かされたのは、モンタナ州の司法長官事務所の担当者がパネリストとして出てきたことだった。州の司法長官は、州警察の関係する刑事事件の訴訟を担当する他、州政府が訴えられた時の弁護も行う。本人の意向で名前を伏せるが、司法長官補としてなら発言内容を書いても良いとの了承を得た。


司法長官補は、通常の業務でNIMSPのデータを利用しているとして、次の様なケースについて説明した。


「1994年、寄付の上限が不当に低すぎるという訴えが議員からn起こされた。我々は上限を上げる必要はないとして訴えを棄却するよう求めた。一審の連邦地裁では、我々は敗訴したのだが、上級審では、我々はNIMSPのデータを使って各州の上限を示すとともに、過去にさかのぼってモンタナ州で各候補が使用した政治資金のデータをまとめ、上限を上げる必要がないと主張。控訴審で、勝訴し、差し戻しになった」


この後、また地裁で敗訴し、再び控訴審で審理が始まっているという。後でこの司法長官補と話したところでは、NIMSPのデータを使って常々政治資金の動向を常に把握するよう努めているということだった。


議論は政治資金をどう監視するかという点だけではなく、政治資金に関わる様々な問題に及んだ。スタンフォード大学ロースクールの教授、ネイト・パーシリー(46)は、政治資金はテレビにコマーシャルを出すようになって急激に金額が増えた点を指摘。それが変わりつつあるということを説明した。グーグルやフェースブックがテレビにとってかわり始めているからだ。そして、それらソーシャル・メディアは、極めて細分化された層に対する働きかけが可能な点が、テレビと極めて異なると指摘。


「テレビはその内容も含めて、様々な規制を受けてきた。しかし、ソーシャル・メディアは規制の対象となっていない。FEC(Federal Election Commission=連邦選挙委員会)で規制する動きが出たが、そうはならなかった。しかし、現在の様な無秩序な状況では、遅かれ早かれ大きな問題になるだろう。また、テレビがそうだったように、ソーシャル・メディアに巨額の政治資金が投入される状況も生まれるだろう。そうなると手がつけられない」


パーシリーは、政府の規制ではなく、ソーシャル・メディア側の自主的な取り組みに期待したいと話を結んだ。


司法長官補が出てきて驚いたと書いたが、更に驚いたのは元議員が登壇したことだった。しかも、「元」と言ってもつい最近まで現職だ。下院議員を2008年から2016年まで8年間務めた民主党のドナ・エドワード(58)。年齢よりかなり若く見える黒人女性だ。


「議員は金で汚染されているというイメージをここに集まる皆さんは語るが、私の印象とは違う。政策はそう簡単に決まるものではない。ただ・・・」


と言って1つのエピソードを語った。


「私は経済委員会に所属していたが、最初、気候変動について議論した時、共和党の議員も含めて、気候変動の問題に対処する必要性を積極的に語っていた。ところが、その後、様々なロビー活動によって私が議員を辞める時には、すっかり皆が気候変動に懐疑的になっていた。これは単純に金がそうさせたということではなく、ロビー活動で気候変動に否定的な産業界の専門家が説明に来るので、そうなってしまったのだと思う」


つまり、政治資金は直接、政治家に流れるというものよりも、それがロビー活動に流れて政策に影響を与えるケースが多いということだった。実は、これも米国の大きな問題となっていて、ロビーストに流れる政治資金の監視も大きなテーマとなっている。


エドワードは2016年の、トランプ大統領が当選した日の選挙で、上院に鞍替えする予定だった。そのために下院議員を辞職した。ところが、プライマリーと呼ばれる民主党の上院候補選びの予備選挙で負ける。その時の金集めの苦労話は有名らしく、そこに質問が集中した。エドワードは冷静に次の様に話した。


「1人100ドル、それで6000万ドル集めれば楽に勝てるし、それが理想だ。しかし現実にはそうはいかない。私は努力したが、大企業に頼らない選挙では、1000万ドルが精一杯だった。対抗馬は2000万ドル集めていた」


「今後はどうするのか?」と問われたエドワードは、「公共の為の仕事は私の求めるものです。これからも挑戦していく」と淡々と話した。


会議の後は、みなで夕食をとりながら語らい合う。こういう時間に、新たな取り組みが始まることも有るという。寝食をともにする4日間だった。最終日の晩は、モンタナの自然の中での屋外バーベキューとなった。緯度と海抜の高さから、モンタナの日没は遅い。午後9時半まで灯がなくても十分な明るさだ。


目の前で焼いてくれた牛肉を塩のみで味わいながら、いろいろな人に日本の状況をきかれた。そのさなか、年配の女性に声をかけられた。アン・ラベル(68)。登壇者でなかったので知らなかったのだが、彼女は今年5月までFECの委員長を務めた人物だった。


ラベルは、日本での取り組みについて気にかけてくれていたのだという。司法長官事務所の人間が出てきた上に元議員が出てきて驚いたが、選挙の元締めとも言えるFECの元委員長が出ていたというのには、本当に驚いた。


私はその驚きを素直に伝えた。


「こういう会合が開かれ、そこに研究者や法律家、ジャーナリストが来るのは予想の範囲でしたが、そこに連邦政府の選挙委員会の委員長だった人物まで来るとは驚きです」


すると彼女は次の様に話した。


「FECにいるよりも、こうした議論の場にいる方がまっとうに考えられるし、ひょっとしたら良い方向に持っていけるかもしれませんよ。FECは問題が多すぎます。私は委員長として政治資金の透明性の確保に取り組んできましたが、共和党によって指名された委員はあからさまに会議をボイコットするなど、結局、私は何もできずに終わりました」


日本でいう証券取引等監視委員会のような委員会性をとっているFECは、6人の委員が大統領によって選ばれ上院の承認を得る当時司法省の幹部だったアン・ラベルらは民主党のオバマ政権によって選ばれたのだが、そのうちの3人は慣例で共和党の推薦で選ばれるのだという。そうでなければ上院の承認を得られないためそうなるのだろう。そして、当然の様に、その3人が最後まで透明性の確保に反対し、彼女は失意の中、委員長任期を全うせずに職を辞したという。


「選挙資金を監視するのは、結局はFECではないんです。国民なんです。ですから、私は委員長を辞めて一般人の立場で発言することにしました」


それで状況を変えることはできるのだろうか?


「この会議に参加した人たちを見てください。いろいろな立場の人がいますよね?それが大事なんです。政治資金を監視することは、民主主義を監視することです。これを政府の機関にやらせるのは、言い方は悪いですが、泥棒に店番をさせるようなものです。あくまでも監視の主体は国民です。私もその立場になってこれからも発言していきます」


それに・・・と彼女は加えた。


「孫と遊ぶ時間も欲しいですからね」


それでも、日本で私が必要なら私も日本に行くと言ってくれた。その会話を聞いていた周囲の人たちから、「私も日本に行きたい。是非、日本で会議を開いて欲しい」と声が挙がった。


私は、頑張ってお金を確保します。それまで待ってください。でも、払えても飛行機はエコノミーの格安でお願いしますと伝えた。それを聞いてみなが「無理しないでいいよ」と笑った。その笑顔を私は励ましと受け取った.


次回は、NIMSPの事務所での取材に基づき、データ作りの作業について報告する。

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